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コラム

No.11 僕が子ども達に伝えたいこと

今では僕のライフワークの1つになっている、小学生向けの体験教室である『子どもチャレンジスクール』ですが、今年度は『キッズ★クリエイターズ』という教室を開催することにしました。
活動内容としては、グラフィックデザインやアニメーションやプログラミングなど、コンピューターを使った創作活動を行なう中で、それぞれが適当に何かを学んで帰ってちょうだいね! というものです。
幅広いジャンルのクリエイティブな体験をすることで、子ども達にとっての"熱中できる何か"に出会えるキッカケ作りにもなればいいなと思っています。

そういうわけで、今回のコラムは、『キッズ★クリエイターズ』を運営していく中で、僕自身が迷走することのないよう、そのコンセプトを明確に表明しておくための場にしようと思います。

子ども達の未来について

現在の小学生は、間違いなく AI 時代の真っ只中を生きることになります。
つまり、ほとんどの作業的意思決定を AI にサポートしてもらえるという、星新一もビックリのサイエンスノンフィクションな社会を生きることになるわけです。

そのような社会で、人間は何ができるのでしょうか?

例えば、車の運転ができれば、足が速い人も、遅い人も、または足が無い人でも、等しく時速100Kmで移動できます。
車というテクノロジーを使いこなすことさえできれば、誰もが人間の身体能力を遥かに超えるスピードや持久力を手にすることができるわけです。

例えば、アドビの Illustrator を使えば、烏口やガラス棒を使えるデザイナーも、使えないデザイナーも、または1歳児でも、マウスで2クリックするだけで等しく美しい線を引くことができます。

例えば、音声入力機能を使えば、タイピングが得意な人も、苦手な人も、または目が見えない人も指が無い人も、等しく高速で文字入力ができます。

そう考えれば、テクノロジーを使いこなすことさえできれば、一般的な作業的・技術的分野において、全ての人間の能力は高次元で平均化されます。
そして、より特化した能力を持っている人は、人間らしい価値観の中で、より魅力的な存在としてその力を発揮する(アスリートやアーティスト、タイピングオブザデッドでヒーローになれるなど)ことができるでしょう。

そのようなテクノロジーによる恩恵は、知的活動の分野においても同じ現象が起こる可能性があります。
はじめにも書いたように、AI によって、誰もが人間の知的能力を遥かに超える知性を手にすれば、ほとんどの作業的意思決定を AI にまかせられます。

つまり、AI デバイスさえ使いこなすことができれば、IQ 50の人も、IQ 100の人も、IQ 150の人も、等しく高次元の知能による思考結果を得られるかもしれず、人間を基準とする IQ の概念自体が意味を成さないかもしれません。
そのような社会において、結局のところ人間は何ができるのでしょうか?

もしそのような未来が来るのであれば、人間のやるべきことは、人間にしかできないことです。
答えのある選択は全て AI に任せ、答えの無いような難題の解決や、社会的認知の枠に縛られない創造的活動のみに、人間は熱中し続けることができるかもしれません。

自ら課題を見つけて、それを創意工夫しながら解決するなど、AI にできないようなことへの取り組みには、全く新しい価値を生み出す可能性がおおいにあります。
そのような価値の創造こそが、人間にしか出来ないことなのではないでしょうか。
つまり、IQ とか全国学力テストとか PISA では測定できないような非認知的スキルにこそ、人工知能には超えられない重要な能力があるはずです。

その証拠に、20世紀型の優秀な子どもが将来目指していた、『医師』とか『弁護士』とか『銀行員』といった職業で、すでに人間の排除は始まっています。
持っている知識の中から最適な答えを示したり、過去のデータを分析して答えを導き出すといった、AIが得意とするジャンルにおいて、どうやら人間が活躍できる未来は無さそうです。

今の学校教育は大丈夫なの?

上記の理由からも、現在の学校教育は早急に変わらなければならないということです。
貴重な授業時間(特に総合的な学習の時間)を未来志向とは言えない独自の教科(例えば教科日本語とか?)を実施するために使ったり、○○スタイルなどと称して子ども達を学校都合の枠にはめ込んだり、『無言そうじ』という時代錯誤な伝統を自信満々に推進している場合ではないのです。
できるだけ早く画一的な暗記型の教育を脱し、多様性のある思考型の教育や、個性を極めるためのギフテッド教育へとシフトすることが大事です。
その辺りの事情に関しては、2020年度から実施される新しい学習指導要領による教育が、現場レベルでどのように変化するかを注意深く見定めなければならないでしょう。

ただ、すでに次期学習指導要領の移行期間に入って1年が過ぎ、猶予期間が残り1年しかないにもかかわらず、例えばプログラミング教育を実施している公立小学校はほとんど存在しないなど、悲しい現実があるのも事実です。
現在のトップダウン方式による学校運営の中では、2020年度からの教育改革で、いきなりロケットスタートを切ることはありえないだろうというのが僕の個人的な推測であり、その推測をいい意味で裏切ってほしいと本気で願っています。

ちなみに僕の場合は、2020年度の到来をひたすら待ち続けることはできませんでした。
なぜなら、太郎は小学生としての貴重な時間を、今この瞬間も光陰矢の如く消費し続けているわけで、あみんには申し訳ないのですが、私待つわ! 2020年度を気楽に待つわ! などという気持ちには到底なれません。
なので、昨年の11月からは、1週間のうち3日間は学校での教育を受け、2日間は自宅で専門教育を実施するというスケジュールに変更しました。
「おいおい、学校を積極的に休ませるなんて、親のすることではないだろ!」と思われるかもしれませんが、画一的な価値観や受け身の思考に染まってしまうのは僕が一番恐れることです。
少なくとも20歳までに1万時間は、太郎の好きなこと… つまり自己決定によってモチベーション高く取り組めるものに没頭してもらいたいと思っています。
もちろん学校教育には学校教育の良い部分がたくさんあり、学校でしか伸ばせない能力が確実にあることも理解しています。
その上で、僕が伸ばしたい能力は僕が行なう専門教育でしか伸ばせないという現状もあるわけで、そのバランス(どちらか一方に偏りすぎないよう)を日数で調整しているというだけの話です。
現時点では、これがベストな教育方法(僕にとっては非常に面倒ですが)だという実感はあるし、2020年度から勃発するであろう、教育改革による学校現場の一時的な混乱にも一喜一憂すること無く、信念を持って突き進んでいけると確信しています。

僕が理想とする教育とはそのようなものなので、その信念を持って『キッズ★クリエイターズ』を運営できればと思っているところなのです。

僕が子ども達に伝えたいこと

最後に、僕が『キッズ★クリエイターズ』で、子ども達に伝えたいことについて書いてみたいと思います。

まず、文科省の Youtube チャンネルの中に、僕が推し進めたいことを的確な言葉で説明された動画があったのでご紹介します。
動画自体は、「学校の働き方改革」公式プロモーションなのですが、『教師の働き方改革』と切っても切り離せないのが『教育の改革』であり、その部分を LITALICO の人がうまくまとめてくれています。

僕が子ども達に伝えたいことも、だいたいこんな感じなのです。
もう少し直接的な言葉で子ども達に伝えるとすれば、『たくさん失敗してね!』ということでしょうか。
現在の教育の中に浸透してしまっている『失敗することはいけないことだ』という価値観を、まずは捨ててもらうことが大事かなと思います。
問題解決への取り組みが得意な子どもはたくさんいるのですが、なぜか失敗することに関しては、多くの子どもが過剰に避ける傾向があります。
失敗を繰り返しながらでも問題解決に挑み続ければ、当初の想定をくつがえすような、認知を超えた答えを導き出せることだってありえるわけで、そういう人間にしかできない部分を楽しんでもらいたいのです。
そのためにも、『デザイン思考』と『プログラミング的思考』を大切にしたいと考えています。

今年度の『キッズ★クリエイターズ』では、モノ作りに取り組みはしますが、その結果(成果物)には全くこだわりません。
時間的な制約もかなりあるため、僕が子ども達に伝えられることは、実は1ミリもないのかもしれません。
ただ、デザインやプログラミングをする過程を心から一緒に楽しみ、試行錯誤することさえできれば、それでいいのではないかと思います。
非認知的スキルを高めるとは、結局そういうことだと思うのです。

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