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コラム

No.14 オンラインレクリエーションにチャレンジした夏

夏休み期間中を利用して、オンラインミーティングシステム(Zoom)を使った、子ども向けのレクリエーションをやってみました。
参加対象は特別支援学校(知的障害)の児童なので、子ども達の個性や障害特性はまさに十人十色です。
そのため、教材作りで最も力を入れた部分は、すべての子どもが、その子なりの認知特性において楽しみながら参加できるための、柔軟な仕組みを作ることです。
この難問に立ち向かうというだけでワクワクしてくるし、僕のモチベーションを高めるきっかけとしては十分です。

さて、いざオンラインレクリエーションを開催してみると、想定通りに行かないことや、予想外におもしろかったことなど、実際にやってみなければ経験できなかったことも多く、新たな知見を得ることができました。
今後は、特別支援学校でもオンライン授業へ向けた取り組みが始まるかもしれないので、そのあたりの期待も込めつつ、僕のひと夏の思い出… いや、血湧き肉躍る青春群像劇について書き記しておこうと思います。

オンライン専用アプリについて

全4回で行なったオンラインレクリエーションでは、参加児童の障害特性などによって、若干使用する教材を変更したりしながら、それぞれが興味関心のあるものを中心に取り組むことができるよう、いくつかのアプリを制作しました。
また、それぞれのアプリでは、子ども達が声に出して発表する以外にも、言葉の出にくい子にはチャット機能による文字を使った意思表示(これが一番難易度が高いですが)や、注釈ツールの矢印の使用や、目的の場所をタップするといった指先による操作など、できる限りそれぞれの子ども達が得意とする意思表示の方法に対応できるよう、ユニバーサルデザインを意識して制作しています。

まずは、教材として使用した自作アプリの一部をご紹介します。

これ何? 迷路ゲーム

ひとことで言えばただの迷路なのですが、「耳」をこよなく愛する子には、耳をテーマにした迷路を提示することで、少しでもモチベーションを発揮してもらえればいいなぁ、などと思いながら制作しています。
つまり、迷路のテーマは、すべて一人一人の子どもが喜ぶ姿を想像しながら描いたものです。

遊び方は、Zoom のペンツールを使い、指先で線を描きながら迷路を進んで行きます。
その筆跡は他の子ども達にも同時に見えているので、迷いながら迷路を進んでいる様子などがリアルに伝わってきます。
道を間違えて引き返したりする筆跡を、ドキドキしながら見守ることができたりと、画面の向こう側にいる子どもとの距離がすごく近く感じられるという不思議な感覚がありました。
ホスト側では、模範解答となる道順の表示と、花丸マークの表示ができる機能があります。

これ何? パネルめくりゲーム

子どもが声か指差しで指定するパネルをめくりながら、下にある写真が何かを当てるゲームです。
今回は、できるだけ早く答えたほうが良いなどのルールは特にもうけませんでした。
オンラインミーティングシステムの特性上、それぞれが使用するデバイスやインターネット環境によって、映像が表示される速度に違いが出てしまいます。
つまり、早押し的な要素や、特に意味のないアニメーションは使用しないほうが無難ということになります。

音声に関しては、環境による違いはそれほど感じられませんでした。
ただ、全員がマイクをオンの状態でガヤガヤしながら進めるのがいいか、ゲームにチャレンジしている子以外はマイクをオフにして、個別に課題をクリアしていくほうがいいのかは、その時の参加者の状況などによって柔軟に対応する必要があると思います。
僕の場合は、みんなでガヤガヤやったほうがおもしろいと思ったので、全員がマイクをオンの状態で進めてみました。
ホスト側では、ひらがなとカタカナによる解答の表示と、正解したときに花丸マークの表示ができる機能があります。

お買い物ゲーム

仮想のおもちゃ屋さんで、おもちゃを購入するゲームです。
商品の中からおもちゃを選ぶシーンと、レジでお金を支払うシーンと、おもちゃをゲットするシーンの3つのシーンから構成されています。
もちろん僕が理解している範囲で、それぞれの子どもたちの好きなおもちゃを棚に並べてみました。

遊び方は、棚の中から好きなおもちゃを選んでレジに持っていき、表示された金額を確認して、財布の中からぴったりのお金を選んで支払うというものです。
間違いなく「うるとらまん」を選ぶだろうと想定していた子が、何の迷いもなく「しんごうき」を選んだりと、予想外の展開もあったりして非常におもしろかったです。

子ども達は声または指差しでゲームを進めることができ、ホスト側では最後のシーンで花丸マークを表示させることができます。
音によるサポート機能として、すべてのゲームで、正解(ピンポーン)、不正解(ブッブー)、拍手喝さいなどの効果音を好きなタイミングで鳴らすことができます。
実際には、解答シーンだけに限らず、「それいいね!」とか「OK!」という感覚で正解音を使ったり、タイミング良く不正解音を連打することで笑いを誘ったりと、進行をスムーズにするためのツールとしての役割が大きいと思います。
場面の切り替えがやりやすいように、始業・終業のチャイム音を鳴らすことができたり、オンラインミーティングの終了を促す際には『蛍の光』の放課後放送バージョンを流すこともできます。

オンラインレクリエーションの感想など

このようなレクリエーションによって、子ども達にどのような効果があったのかと問われると、はっきり言ってよくわかりません。
ただ、わからないことをわからないなりにやってみた結果、よくわからないということがわかったのだから結構な収穫です。
何かを数値化して測定することを目的としたコンテンツを制作した場合、それはまるっきりおもしろくないものになるでしょう。
オンラインにはオンラインに合った考え方で作られた教材を使うべきで、少なくとも紙ベースの教材と同じような考え方で作るとうまくいかない気がします。
聴覚優位の子ども達に対して行なうような、音声での説明を重視した授業スタイルもうまくいかないでしょう。

今回オンライン教材を制作してみて感じたことは、僕が通常業務で行なっているような、ビジュアルベースのウェブデザインと考え方がよく似ているということです。
ウェブデザインは、当然のことですが、わかりやすい図と見やすい色彩と使いやすい配置といった、視覚情報が重要になります。
そのような考え方を、子ども達の好きそうな題材にそのまま落とし込むだけで、オンラインに向いた教材が出来上がるのではないかと思うのです。
もちろんユニバーサルデザインを意識する必要があるので、知的障害クラスが対象であったとしても、参加する子どもの特性に応じて、画像の代替テキストに相当する部分を音声でサポートする仕組みや、視線入力のしやすいデザインに特化したバージョンを準備する必要も出てくる可能性はあります。

教材を制作する上で注意する点は、学年や学級別で制作するのではなく、デザインをするのが好きなタイプの教師が一人でもいるのであれば、その人がすべての教材作りを担当するのが最も効率がいいというか、間違いなく子ども達のためになると思います。
他の教師は、オンラインで双方向型の授業をやっている具体的な姿を想像しながら、その想像世界の中で子ども達にウケた教材のアイディアを、制作担当の教師に向けてひたすらアウトプットしていくのです。
そうすれば、良い教材のアイディアが1箇所に蓄積されていくと同時に、すべての教師が教材開発に参加している意識を持ちつつ、イイ感じの役割分担になるのではないでしょうか。

オンラインレクリエーションをやった理由

自慢ではありませんが、いや、今の時代においては自慢になるかもしれませんが、僕は10年以上テレワーク的な働き方をしていて、ほとんどの業務がオンラインで完結するような、ひきこもり生活を続けています。
ひとことで言えば、ひきこもりのプロなのです。

ちなみに、ひきこもりに関しては多くの人が勘違いしているようですが、一般的な生活様式に対応できない(またはしない)人がダメ人間ということは決してありません。
ひきこもりたいタイプの人は、ひきこもってできる仕事の能力を高めればいいし、睡眠障害のある人は深夜に仕事をすればいいし、人とのコミュニケーションが苦手な人は物を相手に仕事をすればいいだけです。
ひきこもりたいとか、眠れないとか、人が苦手とかいうのも、その特性を生かすことさえできれば、なかなか便利な能力になりえるのです。
同じ時間に同じ場所に集まって、さほど意味も目的も無いような会話をすることがすばらしいことだという、定型発達者が作り上げてきた一般的な生活様式こそが価値のあるもので、それ以外の生活様式には問題があると思うことのほうがよっぽど問題です。
ひとりの世界が好きだったり、深夜に集中力が高まってきたり、言葉より絵で伝えるほうが得意だったりする人達は、それが自分自身の自然な姿なのだと認識して、人生を楽しみましょう。

さて、そんなひきこもりのプロの僕が、夏休み期間中を利用して、子ども達に対して何かできることはないだろうかと考えてみました。
そして、それはオンラインでつながる楽しさを伝えることに違いない! と、なぜか突然ひらめいたのです。
松田聖子風に言えば、ビビビッと来たのです。

新型コロナウイルス以前の社会では、意味もなく同じ時間に同じ場所に集まって、さほど意味も目的も無いような会話をすることがすばらしいことだと思っていた定型発達者にとっては、オンラインでつながる仕組みなど眼中になかったのではないかと思います。
なぜなら、対面でのコミュニケーション能力という、自らの最大の武器が役に立たないような世界に、わざわざ踏み込むはずがないからです。
でも社会は変わりました。

良くも悪くもコロナの影響によって、人間とはどう生きるべきかを問われ、自分なりの答えを探求しなければならない時代に数か月間で突入してしまったのです。
その結果、まだまだ多くの問題が解決できていないものの、社会側は今の生活様式にうまく順応しつつあります。
問題があるとすれば、あとは学校現場です。
今は、教育を揺るがす何かがあった時の代替案や、何もなかったとしても新たな社会的価値に対応するための教育を実施する必要があるはずなのですが、なかなかそうはなっていません。
テクノロジーから最も遠い場所が学校であるという現実が、予測できない未来を不安なものにしています。
学校教育に相当な変化が求められている中、コロナ以前と考え方が変わっていない教師が教育を実施するということは、子ども達の未来を危うくします。
150年間変わらない教育スタイルや、自らのアイデンティティを守ることも確かに重要ですが、子ども達が未来で直面する生き方というものについて、ぜひとも真剣に考えてみましょう。

オンライン教育で未来を変えよう

実のところ、オンラインや ICT の活用について、学校現場がどのように考えているのかはよくわかりません。
コロナの第2波が来た場合、さすがに学校としても何らかの対応(オンライン授業など)をとる必要が出てくるでしょう。
第1波の時のように、プリントを配る以外に何もできないというのでは、公教育の完全敗北を意味するからです。
ただ、第2波が収まった後、コロナ対策用のオンライン授業などが、その場しのぎの特別授業で終わり、また20世紀型の授業に逆戻りしてしまう可能もあります。
また、第2波が永遠に来なかった場合、何事もなかったかのように20世紀型の授業が継続される可能性もあります。
そのような考え方では、残念ながら未来はありません。
ただでさえ、現在の学校教育よりも、教育系ユーチューバーの授業のほうが輝きを放っているという状況なのです。
これはユーチューバーに限ったことではないのですが、例えば京都大学の授業もオンラインで視聴できるし、英語さえわかればハーバード大学やマサチューセッツ工科大学など、あらゆる大学の授業も視聴できます。
しかもすべて完全無料です。
公教育は授業料は無料ですが、実際にはなんだかんだといろいろお金がかかるわけで、「無料」というアドバンテージさえもすでに危機的状況にあります。
つまり、今のままの『変わらぬ学校』ではまずいと思うのです。
何度も言うようですが、今こそが変化するチャンスなのです。
思い切って学校教育を根本から変えていきましょう。

特に特別支援教育に関しては、ICT の活用こそが肝になります。
人に依存しやすい定型傾向にある人達とは異なり、物に依存しやすい自閉傾向のある人達には、モニター越しのコミュニケーションや仮想空間が性に合います。
子ども達の学びを優先的に考えるのであれば、特別支援の現場にいる方々は、今こそ ICT を積極的に活用していくという意識改革をするべきです。
ちなみに、ここでいう ICT の積極的な活用というのは、単に電子黒板などの機器を使用するといった、紙ベースの授業の上位互換的なものを指しているわけではありませんのでお間違えのないように。

鳥栖市の教育の問題点

地域の小学校に通う近所の子どもに話を聞いてみると、現在は学校のパソコンルームは使用禁止になっているとのことでした。
おかしいなぁ、今年度からスタートしたプログラミング教育のためにも、パソコンルームは超絶活用されているはずだと思っていたのですが…
さては、いよいよひとり1台のタブレット端末が準備されたのかな? やるじゃん鳥栖市! と一瞬期待したのですが、それも違うらしいのです。
そこでもう少し突っ込んで話を聞いてみると、どうやらパソコンのキーボードを消毒できないことを理由に、パソコンルームの使用を禁止しているそうです。
なるほどね… アルコールを噴霧したウエスなどで軽く拭けば、十分消毒できるとは思うのですが、学校なりの都合もあるのでしょう。
例えば、スプレー消毒以外の方法は時間がかかるため、何が何でも実施しないというルールを作ったのかもしれませんね。
子ども達の学びをとるか、消毒の手間をとるか、そのあたりの優先順位に関しては、それぞれの考え方があるので何とも言えません。
ただ、コンピューターを使った教育を、できればやりたくないという意思だけはビンビン伝わってきます。
なぜなら、鳥栖市は明確にGIGAスクール構想に参加しないということを表明しているからです。

「現時点で GIGA スクール構想に参加する考えはない。」
ここまで堂々と言えるところがスゴイですね。
鳥栖市教育委員会は、文科省が YouTube で LIVE 配信した、学校の情報環境整備に関する説明会は視聴されたのでしょうか。
学校の ICT 化に取り組まない自治体を猛烈に批判するという珍しい内容の動画ですが、前のめりな熱意はしっかりと伝わってきます。

保護者や児童生徒、そして社会が求めている教育のあり方に対して、わざとのように逆行しようとする鳥栖市の教育方針には、何か深い意図があるかのようです。
例えば、鳥栖市は九州の交通の中心にあり、工場地帯によって成り立っている市でもあります。
そのような事情から、将来的に人口の流出を防ぐ目的で、子ども達に先進的な教育を実施せず、地元に残って工場で働いてもらおうという策略でもあるかのように思ってしまうのです。
もちろん工場の仕事が大好きだという人は、今はそれでハッピーなのですが、その工場の仕事が20年後に存在するのかどうかをよく考えて、今後の教育方針を決定していただければと切に願います。

貴重なひと夏の経験でした

実のところ、学校がどういう教育をするかなどは、僕にとってはどうでもいいことです。
僕がやりたいと思ったことや、太郎がやりたいと思ったことは、学校の事情とは関係無くやるからです。
今回のオンラインレクリエーションもそのひとつです。

ちなみに、よい機会だったので、太郎は夏休み期間中に2つのクリエイティブ活動をスタートさせました。
ひとつはブログをやり始めたこと、もうひとつはユーチューバーをやり始めたことです。
ユーチューバーとしての活動に関しては、今のところゲーム実況しかやっていませんが、今後は楽しみながら発信できる世界が、もっと広がっていけばと思います。
太郎のオンラインでの活動内容については、また別の機会に紹介していきます。

社会の常識が大きく変化していく中で、特に知的障害のある児童を対象としたオンラインレクリエーションを実施できたこと、またはその実現のために創造力と好奇心を発揮できたという経験は、きっと今後の僕と太郎の人生に良い影響を与え続けてくれる大きな財産になったのではないかと思います。

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